障害者福祉、現場に不安 「支援費制度」4月スタート(朝日新聞 03.2.27)
障害者福祉を支える「支援費制度」のスタートまで1カ月余り。サービスの利用内容を市町村が判断する措置制度から、4月以降自分で事業者を選ぶなど障害者の自己決定を重視する制度に変わります。3月には一人ひとりのサービス支給量が決まります。しかし、開始を前に財政難やサービスの不足など問題点も明らかになり、現場では不安が広がっています。
◆増えぬサービス量
「夜間や早朝、休日にもホームヘルパーを派遣してほしい」
1月、埼玉県熊谷市に住む飯田力さん(55)、房子さん(45)夫妻は、支援費制度開始に向けた聞き取りで自宅を訪れた市の職員に訴えた。ともに重度の全身性障害者で電動車イスを利用し、長男(15)と暮らす。
市内の重度障害者向けホームヘルプサービスは現在、市が運営する事業が中心。派遣は平日の午前9時から午後4時までだ。
障害者福祉サービスは国や自治体の財源でまかなわれており、支援費制度でも変わらない。4分の1を負担する市町村が予算を決め、それに合わせる形で都道府県が4分の1、国が2分の1を支出する。このため、市町村の予算が事実上の利用限度になる。飯田夫妻の場合、週4回、1回2時間が実質的な上限。このほかは移動のための全身性障害者向け介護が月90時間だ。
「夫婦で1日約13時間の介助が必要」と力さん。力さんは障害者のデイケア施設の施設長を務めているので、平日は朝晩の着替えや洗顔、入浴、トイレの手伝いなどに介助が必要だ。房子さんはベッドに横になると自力で体を起こせない。夜、介助者がいないときはトイレに行けなくなるので、水分をとるのを控え、午前1時すぎまで車イスに座って起きている。
市の派遣で足りない分はボランティアや有償の介助に頼っているが、経済的な負担は大きい。
支援費制度になってからのサービス内容はまだ決まっていないが、市は1月末、財政状況が厳しく、すぐにサービス量を増やすことは難しい、と飯田夫妻に伝えてきた。深夜や週末に対応できる民間事業者が参入する見通しもないという。
「このままでは何も変わらない」。飯田夫妻らはヘルパー派遣事業に乗り出す準備を進めている。力さんが代表を務める「自立生活センター」の有償介助派遣を発展させ、1月末にNPO法人を設立。専従の職員3人も決め、指定事業者の申請も済ませた。
市の03年度のホームヘルプ予算案は約3600万円で02年度より約600万円増えた。しかし、力さんは「4月からホームヘルプサービスの報酬単価が上がることを考えれば、夜間・早朝の派遣が可能になるような額とは思えない。全体のサービス量が増えないとなると、派遣事業がうまくいくかどうか……」と不安げだ。力さんは27日、市長に会い、予算の上積みなどを訴えることにしている。
◆自治体負担、さらに重く
東京都町田市は障害者福祉の手厚さで全国的に有名だ。最長1日20時間(月620時間)の公的介護を保障していて移り住む障害者も少なくない。300人を超す身体・知的障害者がホームヘルプサービスを利用する。
ホームヘルプの報酬単価アップは、利用量が多い町田市にとって深刻だ。現行のサービス水準を維持するだけで市の負担は02年度より54%増え、約10億円に膨らむ。
厚生労働省が示した国庫補助金の「上限」問題も不安材料だ。全身性障害者の場合、月125時間(1日約4時間)を補助金配分基準とするというもの。国は上限ではないと説明、町田市のように月600時間を超えるサービスを保障している自治体でも経過措置として現行のサービス量を維持する方針を示した。
具体的な内容は未定だが、新たにサービスを受ける人の場合は125時間を超えた分を都道府県や市町村が全額負担することになるかもしれない。
この春、自立して生活するため、町田市に引っ越す準備を進めている車いすの新婚の夫婦がいる。2年前から準備をし、入居するマンションも車いす用に改修した。
夫(29)は1日8時間、妻(29)は24時間近い介助が必要だ。超過分についてサービスを削るのか、負担増を覚悟で現行通り保障するのか。町田市の担当者は「現段階ではノーコメントとしか言えない」と話す。2人は「派遣時間が希望より少なくなれば、生活が成り立たなくなる」と不安を隠せない。
夫婦を支援してきた「町田ヒューマンネットワーク」の関根善一代表(48)も重度の身体障害者で、12年前に埼玉県から移り住んだ。住んでいた市の担当者から「あなたが週4回ヘルパーを使うから、ほかの人が利用できない」とサービスの返上を促されたのがきっかけだ。「同じことがまた起きなければいいが」。関根さんは心配する。
◆事業者は参入に慎重
千葉県のある市の担当者は介護保険事業者を回り、障害者のホームヘルプ事業に参入してもらえるよう要請している。
現在、サービスを利用しているのは重度障害者の2人だけ。需要が少ないために事業参入がなく、選択肢が広がらないために利用者が増えない、という悪循環を断ち切ることが急務だ。しかし、担当者は「参入を検討しているところでも、『高齢者介護で手いっぱいで、障害者に何人のヘルパーを派遣できるかわからない』と言われる」と肩を落とす。
障害者のホームヘルプサービスを行うための指定を申請した居宅介護事業者の数は、1月20日時点で約4150。厚労省は昨年末から参入要件を緩和しているが、見込みを下回っている状態だ。
大手在宅介護事業者の「やさしい手」(東京都目黒区)は、すでに派遣委託を受けている約20の市区については指定を申請した。だが、「自治体の予算には枠があり、サービス量が増える可能性は少ない」として新規参入には慎重だ。
同社は(1)障害者介助は技術的に難しく、介護事故を心配するヘルパーの声が強い(2)高齢者介護より求められるサービスの幅が広く、マニュアル化できない(3)サービスを組み立てるケアマネジャーがいない、などを理由に挙げる。
◆キーワード
<障害者支援費制度> 市町村がサービスの利用申請を受けつけ、障害者のニーズを判断してサービス事業者・施設を選び、委託するのが現在の措置制度。
支援費制度では、障害者が市町村に支援費の支給を申請し、市町村は障害の程度などを考慮してサービスの支給量などを決める。その後、障害者自らが事業者・施設を選んで契約する。
財源は従来通り、国や自治体の障害者福祉サービス予算。市町村によって利用度合いや事業者の参入にばらつきがあり、計上する予算も大きく違う。このため、新制度に切り替わっても、望むサービスを障害者が受けられない事態が心配されている。
■支援費制度利用の手続き
<利>…利用者側 <市>…市町村・事業者側
<利>市町村窓口などで情報収集・相談
↓
<利>希望するサービス利用を申請
↓
<市>申請内容の審査
↓
<市>支給決定(支給量・障害程度区分など
↓
<市>受給者証の交付
↓
<利>事業者・施設を選んで契約
↓
サービス利用
↓
<利>利用者負担額の支払い(<市>支援費請求)
↓
<市>支援費の支払い
(2003/02/27)